Atopic dermatitis
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎とは
アトピー素因(アレルギーを起こしやすい体質)と皮膚バリア機能の脆弱性に起因し、増悪と軽快を繰り返す痒みのある湿疹を生じる慢性の皮膚病です。食物アレルギー、気管支喘息,アレルギー性鼻炎、結膜炎など他のアレルギー疾患を併発することもあります(アレルギーマーチ)。一般に乳幼児・小児期より発症し、年齢があがるとともに症状が緩和されることが多いですが、一部で成人期以降も続きます。痒みの症状が強い場合は、睡眠障害、成長障害、学習障害などを生じるため、患者さんの生活全体に関わってきます。また、特に顔面の皮疹がつよい場合は、掻把の刺激も加わり、白内障や緑内障を生じることもあります。慢性疾患であり、治療は長期にわたりますが、継続した治療により、うまくコントロールすることができます。上手にコントロールできるコツは、患者さんやご家族の方にアトピー性皮膚炎や治療薬について学んでいただくことが重要です。同時に、外用薬の塗り方や環境を整えることも重要です。日々の診療で、そのような点まで掘り下げて、重要な点は何度も何度もお伝えししながら治療していくことを心掛けております。
入院教育について
木曜日から約10日間のアトピー教育入院を行っております。入院中は、アトピー性皮膚炎の病勢を2~3回評価していきます。治療は外用療法を中心に行います。疾患・治療について勉強していただく時間も設けています。また、外用指導や生活指導なども行います。外用指導は、ステロイド剤を中心に患者さんと一緒に毎日塗りながら行います。今までの環境から離れることで、自分を省みるよい機会にもなります。多くの方が、短期間の入院で皮疹やかゆみなどの症状が軽快します。また、きちんと治療するとよくなると自信にもつながります。アトピー性皮膚炎において、いかに外用治療が大切か、医療者側も再度身に沁みます。
重症度について
重症度の評価は、適切な治療選択に必要です。国際的に用いられるEczema Area and Severity Index (EASI)や、Severity Scoring of Atopic Dermatitis(SCORAD)の評価法を中心に、病勢を評価していきます。掻痒についてはVisual Analogue Scale (VAS), Numerical Rating Scale (NRS)などの評価方法を用います。血液検査で好酸球数、血清LDH(lactate dehydrogenase)値、TARC値(Thymus and activation-regulated chemokine)なども定期的に測定します。これらの数値はアトピー性皮膚炎の病勢を鋭敏に反映します。皮膚の状態を数値化することは、今後の治療と対策に非常に有用です。全国規模の疫学調査(調査年度:2000~2002年度、2006~2008年度)における1歳6か月児から大学生のアトピー性皮膚炎症例の重症度別割合よると、中等症以上の割合の年齢別変化では、1歳6か月児16%、3歳児15%、小学1年生24%、小学6年生28%、大学生27%と、幼児期よりも学童期以降に症状が悪化する傾向があります。アトピー性皮膚炎の病勢・重症度をただしく評価し、早期より継続して治療していくことが重要になります。
治療について
アトピー性皮膚炎の病変は皮膚の表層にあります。よって治療は局所外用治療が中心になります。外用剤は、皮膚の保護とバリア機能を補う保湿剤を使用します。炎症のある部位は、ステロイド外用剤や、タクロリムス、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬の軟膏などの抗炎症外用薬を用います。それぞれの外用薬に長所と短所があるので、うまく組み合わせて副作用を生じないよう治療していくことが重要です。再燃を繰り返す皮疹は,急性期の治療で寛解導入した後に,保湿外用薬によるスキンケアに加え,ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏を間欠的に塗布し,寛解状態を維持する治療も行います(プロアクティブ療法)。プロアクティブ療法は、再燃した時に抗炎症外用薬を使って炎症をコントロールするリアクティブ療法より、よりよい皮膚の状態を維持することができます。外用指導と生活指導も同時に行います。アトピー性皮膚炎の重症度によっては、紫外線療法や、内服療法、注射の治療もおこないます。内服についてはステロイド剤や、免疫抑制剤(ネオーラル®)、最近ではJAK阻害剤を使用します。注射に関しては生物学的製剤であるデュピルマブ(デュピクセント®) の投与を行っております。現在アトピー性皮膚炎で保険適応にあるすべての治療を行っています。また、治療は日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドラインに従って行います。 症例によっては、アレルギー検査(パッチテストやプリックテスト)も行いながら治療を進めます。