Skin surgery
皮膚外科分野
皮膚外科、皮膚悪性腫瘍(皮膚がん)診療
皮膚科は広い診療範囲を持つ診療科ですが、疾患を外科的手技(手術)を用いて改善させるのが皮膚外科です。皮膚外科で取り扱う疾患には皮膚がん、ホクロや脂肪腫などの皮膚の良性腫瘍、皮膚感染症、難治性皮膚潰瘍、再建手術などの複数の疾患があります。これらに加え、皮膚がんでは手術以外の治療(機器を用いた診断や放射線、化学療法など)を複数用いて複雑な診療を行います。名市大皮膚科では年間約900件の手術を行っており、その内皮膚がん関連の手術は約300件(切除術、再建術など)と全国でもトップクラスの数の手術を行っております。本項ではそのうち代表的な皮膚がんと、その他のいくつかの疾患の紹介をさせて頂きます。
皮膚悪性腫瘍(皮膚がん)
悪性黒色腫に対する治療
いわゆるホクロのがんです。皮膚がんにもいろいろありますが、その中でも悪性度が高く、別名『メラノーマ』とも呼ばれます。放置すると近くのリンパ節や他の臓器に転移して命に関わることもあり、早めの対処が必要です。見た目ではホクロと区別が非常に難しい場合もあり、専門医による「ダーモスコピー検査」を行い、早期病変を診断します。
当院には年間約60名程度の患者さんが受診され、40名(2020年実績)の手術を行っております。
手術療法
局所で進行した場合は大きな切除やリンパ節郭清術などが必要になる場合もありますが、近年では手術による身体へのダメージを最小限に抑えるものが多く、当院でも、最新のフルカラー赤外線観察カメラとシンチグラフィーを併用したセンチネルリンパ節生検が可能です。これにより最小限の手術で治療を行うことができます。
抗腫瘍薬
悪性黒色腫に対する薬剤治療は近年めざましい進化を遂げ、数年前と比べ、かなりの患者さんを救うことができるようになりました。今まで行われていた抗がん剤による治療に加え、分子標的薬剤(タフィンラー®・メキニスト®、ビラフトビ®・メクトビ®など)や、免疫治療(オプジーボ®、ヤーボイ®など)を活用して治療を行えます。当院では、できる限り日常生活を維持し、快適な治療が行えるように、また、無駄な入院を省くことで経済的な面でのメリットも考え、外来化学療法室での薬剤投与を中心に行っています。
※仕事の関係や保険の関係上入院を希望される方に関しては、入院で治療を行うことも可能です。
放射線治療
悪性黒色腫は、他の悪性腫瘍と比べて比較的放射線が効きにくいことが知られておりますが、陽子線を始めとする新たな放射線治療の登場により、手術治療が行いにくい部位(副鼻腔や膣など)に関しては同じ大学附属病院である西部医療センターと協力して陽子線治療を行うことも可能です。
その他
悪性黒色腫は体中色々な部位に出現することも特徴の一つです。当院では大学病院という体制を生かして、他の診療科(消化器外科、泌尿器科、産婦人科、形成外科など)との連携により、アプローチが困難な部位への手術療法や再建、また抗腫瘍薬による合併症の対応などを行っております。また、がん研究センター中央病院との連携のもと、がんゲノム検査にも対応しており、ほとんどの検査、治療に対して対応が可能です。
外来化学療法室での免疫治療のメリット、安全性について
はじめに
我々の施設では免疫治療や、抗がん剤による治療を行う方の日常生活の維持および生活の質を向上することを目的に、薬剤の投与に関しては、できる限り外来化学療法室を使用していただき、日帰りでの薬剤投与を行っております。そのメリット、安全性についてご説明します。
外来化学療法室ってどんなところ?
化学療法とは、いわゆる抗がん剤治療ですが、最近は、新しい治療法として、分子標的治療薬や免疫療法が誕生し、合わせて化学療法として実施されています。これまでは化学療法の多くは、長期間、入院して実施されていましたが、副作用の軽減した抗がん剤や、吐き気止め、内服抗生剤、白血球増多因子の開発により、5人に4 人位までは、安全に外来で化学療法を実施できるようになりました。この数年の間に急速に入院から外来治療へと移行しており、「普段の生活を変えずに化学療法を受ける」時代になってきました。
抗がん剤の使用には、慎重であるのみならず、化学療法について、知識、経験の豊富な医師、薬剤師、看護師が実施することにより、その安全性が一層高まります。そのため、化学療法を点滴で実施する専用の室とスタッフを設置することが求められるようになりました。それが外来化学療法室です。
名古屋市立大学病院 外来化学療法室の特徴(ホームページより)
時間も含めて完全予約制
待ち時間の軽減とともに、専門スタッフが前日にすべての患者さんについて予習します。
抗がん剤入力は
完全コンピューターシステム化
抗がん剤の誤投与防止に極めて有効です。
医師、薬剤師、看護師が常駐
何かあった時の迅速な処置が可能であるとともに、それぞれの専門職からアドバイスをいつでも受けられます。看護師への相談は月100件、薬剤師への相談も月100件を超えています。
看護師、薬剤師よるオリエンテーションを実施
はじめての治療による不安の軽減、日常生活の注意点の説明、また、これからおつきあいする専任スタッフとの人間関係づくりに役立ちます。
快適装備
リクライニングチェアには、テレビ、ラジオ、CD、DVDが無料で使用できます。ご体調によりベッドもご利用できます。カーテンによりプライベートを確保します。
名古屋市立大学 皮膚科における外来化学療法室の使用状況
我々の施設では以前より尋常性乾癬などの疾患に対して生物学的製剤の投与を数多く行っており、外来化学療法室での薬剤投与には経験豊富です。たとえば2020年4月から2021年3月までで計算をすると、1年間で、604件(146名)の患者さんに対して外来化学療法室での薬剤投与を行っており、外来化学療法室での薬剤投与を開始してから、過去に大きなトラブルに見舞われた方はおられませんでした。
治療に関する時間の問題
外来で薬剤の投与を行う場合と入院で行う場合のタイムスケジュールを記載します。
入院の場合は1泊2日が基本になると思われますが、外来で行う場合は、数時間で治療が終了します。午前中のみ休みをとって、午後からは仕事に行けるから助かるといった声も聞きます。
医療費の問題
新規の薬剤、特に免疫療法剤は非常に高価な薬剤ですが、高額療養費制度を使用することで、年齢や所得に応じて一定額以上の医療費に関しては払い戻しがありますので、ご安心ください。
(しかしながら払い戻しに使われるお金も税金から捻出されています。医療費抑制という意味でも外来化学療法室での薬剤投与をおすすめします。)
上手に化学療法をうけるには(名古屋市立大学病院 化学療法部ホームページより)
- ご家族のキーパーソンを決定し、常に病状を共有するようにしましょう。
- 診断確定や治療法の決定等、節目には特別に説明の時間をとってもらいましょう。
- データをもらい、病状を把握しましょう。少なくとも病理診断名、病気のある部位(病期)、主な副作用の対応の仕方は知っておきたい点です。
- 治療の目標が治癒であるのか病気との共存であるのかを明らかにしましょう。特に「標準療法」であるかを確認。
- 質問内容をあらかじめ自宅で整理・箇条書きにしておきましょう。
- わからないことは主治医以外にも外来化学療法室担当者(医師、薬剤師、看護師)、がん相談員(がん相談支援センター)にも聞いてみましょう。
- 初発、あるいは再発の時には、セカンドオピニオンの利用を検討しましょう。
- 病院、あるいは患者会主催の勉強会を適宜利用しましょう。
その他の皮膚がん(有棘細胞癌、基底細胞癌など)
悪性黒色腫以外の皮膚がんには各種種類があります。
当院には年間約250名程度の患者さんが受診され、年間約200件(2020年度実績)の手術(切除術のみをカウント)を行っております。
有棘細胞癌
皮膚を構成する細胞のなかで、一番外側にある上皮から発生する皮膚がんのひとつです。 この有棘細胞がんの中でも早期のもの(がん細胞が浅いところにのみ存在するもの)をBowen病(ボーエン病)や、日光角化症※と言います。
早い段階で手術等を行い、腫瘍を取りきってしまえば問題ないことが多いのですが、放置し進行した場合には転移や浸潤をきたし、悪性黒色腫と同様に命に関わることもあります。
※日光角化症は、健康保険上日光角化症は良性腫瘍の扱いになっています。
基底細胞癌
皮膚を構成する細胞のなかで、最も下の基底層を構成する細胞と形態が類似するがん細胞からなる皮膚がんです。
このがんは転移を来たすことはごく稀であり、放置した場合、局所で増殖し、周囲の組織に浸潤する傾向にあります。好発部位は顔面で整容面にも配慮が必要であり、特に手術が難しい部位である目の周りや鼻などにも多く見られます。
当院では特に眼瞼(まぶた)や鼻、耳などの部位に発生した例が多く、切除を行うのみでなく、術後の再建(きれいに治す手術)も同時に行うことができます。)
その他の皮膚がん
メルケル細胞癌、血管肉腫、隆起性皮膚線維肉腫、汗腺癌、汗孔癌、脂腺癌などの希少がんの治療対応も行っております。手術治療から最新の免疫療法やゲノム検査なども可能ですので、是非ご相談ください。
尋常性白斑
尋常性白斑はいわゆる「しろなまず」と言われる皮膚の色が白く抜ける疾患です。原因は未だにはっきりとしておりません。
いくつかのタイプが存在しており、それぞれのタイプに応じて治療法を選択する必要があります。ナローバンドUVB、エキシマライト、エキシマレーザーなどの光線機器や1mmミニグラフトなどの手術治療など、最先端の治療を行っております。また、当院形成外科と合同で培養表皮を用いた手術治療の臨床研究も行っており、複数の選択肢の中からより良い治療を選ぶ事ができます。
汎発型
全身に白斑ができてくるタイプで特に擦れる場所(肘や膝など)に多いとされています。拡大を防ぐために刺激を避けるのが重要になります。強い日焼けをしたり、怪我をしたり、常に同じ場所を擦るようなことをしていると白斑が出現してくることがあります。
治療としては光線治療が最もよい適応になりますが、拡大が止まったものに関しては一部で手術の適応になることもあります。
分節型
神経の走行に沿って出現してくるタイプです。小児期に出現してくることが多く、難治といわれております。
光線治療への反応は、他の型に比べると比較的悪く、手術治療の適応となることがあります。
限局型
上記の汎発型、分節型いずれにも分類されないものです。海外では更に細分化することもあります。治療への反応は比較的よく、塗り薬の治療で反応が見られることも多いタイプです。
虚血性潰瘍(閉塞性動脈硬化症、糖尿病性壊疽など)
近年増加している疾患の1つです。
皮膚還流圧(Skin perfusion pressure;SPP)、経費酸素分圧(TcPO2)、などの血流測定機器を用いて血流評価を行っております。
虚血性潰瘍の治療としては、まず何より大切になってくるのが血行(どれだけ血が巡っているか)です。何種類かの機器でこの血行を測定し、不良な場合は循環器内科、心臓血管外科と協力してまずはカテーテルなどの方法で血行を再建します。(詰まっている血管を広げる治療)その後、血行がよくなっているのを確認して局所の処置(手術や軟膏治療)を行います。
当院で行っている、潰瘍、再生治療と併せて、できる限り肢を温存する治療を推奨しています。